対談: 精神病院依存主義からの脱却

管理者の善意を前提としている地域生活移行支援(退院促進)事業は壮大なまやかし

大熊 何年か前に始まった退院促進事業という国策も、壮大なまやかしでしたね。精神科30万床を埋めている入院者のうち社会的入院が7万人だなんて、何の根拠もない。国際的な常識からすれば、その倍以上でしょうに。しかも病床を削減するつもりはない。精神病を退院させたら、その空きベッドに認知症を入れはじめた。あれは恐ろしい事業です。

新居 実を言えば、私は平成15年(2003年)から平成18年まで静岡県精神障害者自立支援退院促進事業の代表だか会長だかを務めさせられました。3年やっているうちに嫌気がさして、県に散々文句を言って、降りました。最初の頃、私は市内近辺の精神病院の院長にあいさつに回って事業に協力依頼をしたものです。みんな困惑しながらも私の顔を立てて数名の候補者を出してくれました。私が精神科合併症病棟をもつ総合病院の院長を直前までやっていたおかげで、とりあえず逆らわない姿勢を示したのでしょう。長期在院者の退院促進というこの事業の根本的な弱点は、私的精神病院の管理者の善意に期待していることです。空床を増やしたり病床を減らしたりするのは、経営上の死活問題です。この事業がうまくいったとすれば、1病院当たり平均23%病床が空きます。浜松では、私的精神病院のほとんどがこの10年以内に病院を造り替えています。新病棟はどこも借金で造るしかありません。空床20%が続けば必然的に赤字経営に陥り、倒産の危機を迎えます。私的病院の経営者が自分の首をしめるような事業に協力するはずがないのです。

大熊 退院促進事業は地域移行推進事業と名を変えて取りあえずは終わりましたが、23年度から「精神障害者アウトリ-チ推進事業」と看板を掛け替えて、7億円の予算をつけましたね。