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最後に残るのが自傷他害の問題

新居 重い精神障害の人を地域で支えていくということになると、残るのは自傷他害の問題です。

大熊 自傷、つまり自殺の問題は、トリエステ精神保健への非難のタネです。

新居 自殺企図の強い当事者の場合は、在宅で24時間ケアの体制をいかに構築するかだと思われます。私の体験ですと、一定期間にかぎり24時間体制でケアし続けることが最も効果的です。しかし、現在の保険医療体制下ではボランティアを加えない限り在宅での24時間カバーは不可能です。

大熊 他害の問題は、どうされているのですか。

新居 地域で他人に傷害を加えた当事者は犯罪者として拘束され、医療観察法下の処置を受けることになるわけで、私たちの視野から消えていきます。もっとも多いのは家族へ暴力です。骨折させられたり、刃物で小突かれたり、殴る蹴るで体中あざだらけになったりして、相談に来られることがよくあります。なぜか警察も保健所も、被害者が家族の場合は取りあってくれません。精神障害者の犯罪は身内に向うことが最も多いのに、家族は殺されるまで我慢していろ、と言わんばかりです。

大熊 患者であろうが無かろうが、一般市民と同等の刑事責任を負うべきでしょうね。医療観察病棟や司法精神病院に入れるような特別扱いはやめて、裁判も受けてもらうべきでしょう。ただし裁判では、病気についても取り上げられ、情状が勘案されるのは当然だと、僕は思います。

 

新居 とにかく、身内に向かっての暴力がさらに嵩じていかないように、保健師も警察も介入すべきです。介入するとは、逮捕したり留置したりすることではない。保護して精神病院に入院させることでもない。暴力がそれ以上募らないように、公的権力の代表として当事者をいさめることが重要です。暴力がエスカレートするようであれば、留置するとかの刑法的処置を講じるべきでしょう。しかし保健所も警察も、当事者を入院させる・させないでしか見ようとしません。これが根本的な間違いです。私は相談に来た家族に、警察、保健所が頼りにならないならば、一時避難しなさい、家から逃げ出してしまいなさい、と言います。以後に起きる問題は保健師と警察に預けて、雲隠れしてしまいなさい、と言います。これが家族を守る現在の唯一の方法です。私たちも訪問してよく殴られますが、それが恒常的に起こり続けるのであれば、やはり警察の同伴が望ましいところです。とにかく、逮捕したり保護入院させたりするのではなくて、諫めるとか説教するとか、してほしいですね。同伴者として、傷害行為の予防をしてほしいのですね。地域の訪問支援チームに保健師や警察官が加わるのは、おかしいことではない。これでこそ、他害傾向の人を入院させないでお守ができる一法だと考えます。私たちのチームも、自傷他害の当事者についてはまだ非力です。暴力をふるい続ける当事者は、私達だけでは訪問継続困難になります。私たちと警察官が来合せることもたまにありますが、協力関係はまだ得られていません。精神科関連であることがわかると警察は身を引いてこちらに預けてしまおうとします。途方に暮れた家族はともかく落ちつかせるためにこっそり薬を食事のもるようになったりします。

大熊 いわゆる非同意内服ですね。

新居 こういった家族の行動を阻止する権限も私達にはありません。そして現在は精神病院が存在していますから、家族はいかに入院させるかを考えてしまいます、警察も保健所も近隣も、入院してくれれば安心だと考えているに違いありません。家族を孤立させず、家族と共に徹底して地域で支える地域訪問支援チームが、私たち以外にも増えていくことが望まれます。

24時間オープンの地域精神保健センターが威力を発揮

大熊 精神病院の無いトリエステの場合、こういうピンチに力を発揮しているのは、24時間オープンの地域精神保健センターです。センターは、人口6万に1か所はあります。ナースは夜中でも必ずいます。医師は、当番制で、自宅待機です。オンコール状態です。もひとつは、センターに鍵のかからない個室が4部屋あります。家族から話したい、一人で置いておきたくない、といった時に使われます。もちろん、夜中のアウトリーチつまり出前診療もあります。統計的にみると、トリエステは、司法精神病院おくりがイタリアで最も少ない町です。人口25万で、毎年1人ないしゼロです。地域精神保健サービス網が威力を発揮しているのだと思います。ただしイタリアでも、約700か所(人口は日本の半分)あるセンターのうち24時間オープンは50カ所です。だからイタリアの精神保健改革が完全勝利とは言えないのだ、とバザーリア派はいいます。

新居 自傷他害の当事者を地域で支えていくことができれば、隔離拘禁する精神病院は必要なくなります。精神科医の隔離拘禁権限も必要なくなります。精神病院を減らしていく一番手っ取り早い方法は、一般科でやられている在院日数に応じて入院保険点数を漸減していく方法です。これによって一般科はどんどん弱小病院が淘汰されていきました。厚労省がやらないのは日本精神病院協会が怖いからではないでしょうか。或は、精神科病床を減らす別法は、まず日本の公的精神病院を全廃することだと思います。それに代わって地域に強力な地域支援訪問チームを作ればよい。これは国策として可能です。公的精神病院を公的在宅支援チームに代えることは、必ずや私的精神病院にインパクトを与えます。

大熊 それは、妙案ですね。お金もかからないですし。

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