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急性増悪時こそ入院させないシステム作り クライシスにも「抱擁が一番大事」

新居 精神科救急の体制整備で何が目標とされているかというと、急性増悪の時にどの地域においてもいかにスムーズに入院医療につなげるシステムを作るか、です。それが人道的なことだとみんな思っています。急性増悪時こそ入院させないで、地域でお守りをするシステムを開発しよう、といった逆の発想が全くない。

大熊 1970年、精神病院に入った時に味わった屈辱感は、忘れられません。患者にあんな思いをさせ続けて恥じない、なんて鈍感すぎます。地域支援の時代が来た、と本気で考えるなら、精神病院依存システムよりもっと優れたシステムがあって、その有効性も証明されていることを、行政は強調するべきです。

新居 精神医療の主たる特質は、その隔離拘禁性にあります。精神科医は必要とあれば精神科病棟を背景に患者の人権を奪うなり制限するなりして隔離拘禁や強制治療ができる権限を与えられています。それが、他科にはない精神科医の特権で、その権限を行使できる資格が「精神保健指定医」です。国から付与されている特権です。指定医を取って初めて精神科医としての最低限の専門性を獲得できる、とみんな考えます。指定医の資格を取らないで精神科臨床を継続する精神科医に、まだお目にかかったことがない。

大熊 1978年にイタリアで精神病院廃絶法(180号法、別名バザーリア法)が制定された時、イタリア精神保健改革の父フランコ・バザーリアは、精神科医の強制治療・強制入院の特権をなくした新法にしようとしたそうです。これは、新法の起草者の一人ブルーノ・ベニーニという政治家から直接聞きました。バザーリアは「医師がご主人様で患者が従者」では本当の治療関係は築けないと考えた。しかしこの提案は反対が多くて通らなかった。

新居 隔離拘束の権限を持つ精神科医としての特権行使は、地域では全く必要ないどころか、むしろ有害です。医療不信が強くて医療を拒否する当事者に薬を服用してもらうまでには、1年、2年、3年とかかることがありますが、それでも辛抱強く関わりを続けていくことによって友好的な関係ができて、薬も服用してくれるようになるのです。地域では、当事者と私とはあくまで対等な信頼関係が築きあげられるのであって、一旦できればそんなに崩れるものではありません。

大熊 イタリアでバザーリア派と呼ばれるバザーリアの同志や弟子や孫弟子たちは、患者との信頼関係を最も大切にします。信頼関係こそが一番のクスリです。イタリアも、法律上は強制治療が可能ですが、バザーリア派の精神科医は隔離拘束の権限を嫌います。強権を発揮するより対話や説得を粘り強く行います。クライシスのときも「抱擁こそが一番大事」といいます。

地域で生活するためには完治する必要はない

新居 精神病は、無理に治そうと思ってはいけない。むしろ地域では治す必要ない、生活していければいい。そのために可能な最低限必要の医療支援とは何かを考えていく。この考え方に到達したら、私たちの気持ちが楽になりました。これで、私の内なる悪徳精神科医からやっと解放された感じがしました。

大熊 それは、生前のバザーリアが常づね言っていたことと同じです。イタリア人は狂人とか狂気という言葉を平気で使うのですが、彼はこう言いましたよ。「多くの精神科医が、重い統合失調症の患者を病院に入れて、完治してないといっては入れっぱなしにする。ところが、病院の外で生活するには、なにも完治する必要はない。患者は専門家の支援のもとで自分の狂気と共存できるのだ。精神科医の変革を待っていたって何も変わらない。今は、大きな文化運動を起こして、精神科医が変わらざるを得ない状況をつくることこそが大事なのだ」とね。この「自分の狂気と共存できる……」は、統合失調症の人々が地域で暮らすときの極めて重要なポイントですね。

新居 厚労省も一般市民も、いまだに常識として、精神医療には隔離拘禁が必要であり、それを行える病院が一定数いるのだ、と考えています。この常識を覆していくしかありません。精神科医が日常業務の中で、患者の隔離収容や拘束の権限を振るっている限り、それをいくら人道的にやっていると主張しようと、宇都宮病院の医師たちや院内でリンチ殺人を容認していたあちこちの悪徳病院の医者たちと、基本的には何も変わりはしない。そう気が付いたのが東京での精神医療改革運動に参加していた時でした。悪徳病院の精神科医たちだって、「患者のために、社会防衛のために、善意と専門家能力を駆使して治療や処遇をしているのであって、なんらやましいことはない」と主張していたように記憶しています。

大熊 宇都宮病院の院長だって、「うちは北関東医療刑務所だ」なんて、変な使命感に燃えていました。

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